※あくまで勉強会の報告書ですので,間違った解釈が含まれる可能性があります.また,形式は統一していないことをご承知おきください.内容に関するコメントなどは是非事務局までお願いいたします.
また、本報告書は基本的に「野田泰一・西川輝昭(編集:2005)国際動物命名規約第4版(日本語版)」と「大久保 憲秀 (2006) 『動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方』」を参照しています。その他の引用文献はページ末に付してあります.
2015年6月14-15日
第7回命名規約輪読会
生野賢司
条30 (属階級群名の性)
背景:性の一致(p. 95;条31.2)
内容:属階級群名(p. 105;主に属または亜属の学名)の性の決め方のルール
全体の構成:
条30.1 ラテン語orギリシア語の単語から形成した学名の場合
条30.2 ラテン語でもギリシア語でもない単語から形成した学名の場合
30.1. ラテン語(p. 107)orギリシア語(p. 91)の単語から形成した(※)学名の場合
※規約本文では「作った」となっているが,英語版ではどちらも「formed」.訳の不統一と思われる.
30.1.1. ラテン語単語かそれに終わる ⇒ ラテン語辞書に従う
複合語(p. 102)の場合は最後の要素語による
※どれが「最後の要素語」なのか判断が必要
※日本語版の「例」に訂正あり(2006年の日本語版追補)
30.1.2. ギリシア語単語かそれに終わる(変更が換字[p. 90]のみ)⇒ ギリシア語辞書に従う
30.1.3. 換字以外のラテン語化(p. 107)を伴うギリシア語単語
⇒ 換わった語尾もしくは付加されたラテン語接尾辞の性
※日本語版の「例」の右注に訂正あり(2006年の日本語版追補)
※条30.1.2の例を見ると,結果的に綴りが同じでも換字と見なせる場合あり(?).ちなみに第3版までは補追に換字手順が掲載されていた(大久保,2006,p.109)
30.1.4. 条30.1.1~30.1.3における【例外】
30.1.4.1. 設立(p. 95)時に著者がラテン語やギリシア語から作ったものではないと述べるかそれとして扱わないと述べた場合[条26]
⇒ 文字の任意組合せ(p. 106)のようにする[条30.2.2※;著者の特定した性に従う]
※条30.2.2だけではなく条30.2.3や条30.2.4も該当するのでは?(大久保,2006)
30.1.4.2. 通性(p. 31右)もしくは可変の性をもつ単語かそれに終わるもの ⇒ 男性
【例外】設立時に著者が女性だと述べたり,女性として扱っていたりする場合
30.1.4.3. –ops※に終わる複合語 ⇒ 男性 由来や著者の扱いによらない(例外なし)
※ –opsの語源(由来)は特定していない(大久保,2006;cf. 条30.1.4.4)
※大久保(2006)によれば,本条は過去の規約が招いた混乱の収拾を強引に図ろうとしているらしい
30.1.4.4. 接尾辞 -ites,-oides,-ides,-odes,-istesに終わる複合語※ ⇒ 男性
【例外】設立時に著者が別の性だと述べたり,別の性として扱っていたりする場合
※ 大久保(2006,p. 118)は「複合語の名前の定義から,接尾辞がつく名前はすべて複合語である.従って,これらの接尾辞の前にくる単語は複合語である必要はない」としている.しかし,規約における複合語の定義(p. 102)では接尾辞は基本成分として数えないことになっているため,接尾辞がついた名前がすべて複合語とは限らない.
30.1.4.5. 語尾を換えたラテン語単語またはそれに終わるもの ⇒ その新しい語尾の性語尾が性を示さない場合 ⇒ 男性
30.2 ラテン語でもギリシア語でもない単語から形成した学名の場合
30.2.1. 換字なしで現代ヨーロッパ言語の性をもつ名詞を正確に再現 ⇒ その名詞の性
30.2.2. 条30.2.1が適用されない場合 ⇒ 著者が特定した性
30.2.3. 性が特定されない場合
⇒ 設立時に含められた名義種[条67.2※]名での結合で指示される性
※ その属に初めから含まれるもの[条67.2.1]に限定される(大久保,2006)
30.2.4. 性が特定も指示もされない場合 ⇒ 男性
【例外】-aに終わるときは女性,-um,-on,-uに終わるときは中性
勧告30A 新しい属階級群名を設立する著者は,その性と由来を明示すべき
勧告30B ラテン語でもギリシア語でもない単語に基づいて新しい属階級群名を形成する著者は,その語尾にふさわしい性を選んで自明なものにすべき
※どんな言語の単語に基づいていても,その言語を知らない研究者には性別がわからない場合が多そうなのは容易に想像できる.その言語を知っているはずの研究者ですら,例えば命名されてから100年後には男女が判断できなくなっているかもしれない(今でも男女ともに使われる名前ってありますね).結局のところ,どんな場合でも命名する際に丁寧な説明を加えておくことが重要.
引用文献
大久保 憲秀,2006,動物学名の仕組み 国際動物命名規約第4版の読み方.伊藤印刷出版部,301p.